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音楽室

慌しい一日の中での、寛ぎのお茶のひととき。

おいしいお菓子もいいけれど、ときには音楽でもいかが?

一人優雅に耳を傾けるもよし、気の置けない人との楽しいおしゃべりのBGMにするもよし

お茶の時間をいっそう楽しくしてくれること請け合いの音楽の数々を、

ここではお薦めのCDと共にご紹介します。

 

その二:人形を愛でつつ――フランソワ・クープランのクラヴサン曲集――

 

 一度かたちづくられてしまった人形の表情は、決して変わることはありません。けれども不思議なことに、それを見る人の心の状態を人形は映し出します。こちらの気分が沈んでいるときには、人形の顔はなぜか悲しそうに見えます。うれしいときには、何かしら人形の顔も輝いています。凛とした佇まいの中にも、そんなふうにいろいろな表情を見せてくれる人形たち――今回は、そんな彼や彼女たちを愛でつつゆったりとした時をすごすのに相応しい音楽を選んでみました。

 

  それは、フランソワ・クープラン(1668-1733)のクラヴサン(「チェンバロ」や「ハープシコード」ともいいます)曲集。彼は「フランスのバッハ」とも呼ばれるほどの音楽家で、その完成度の高い典雅な音楽はフランス・バロック音楽を代表する存在となっています。そんなクープランの代表作が、全4巻からなるクラヴサン曲集。そこには27の組曲に200を超える小品が収められていますが、決して節度を失わないフランス的優雅さの中で、実に多様な音楽が繰り広げられます(個々の曲の題名が面白いのも、この曲集の特徴です。たとえば、〈猫なで声〉〈目覚まし時計〉といったものや、あるいは〈○○の女〉――○○には「威厳のある」とか「魅力的な」とか「危険な」などさまざまな形容詞が入る――といったものなど、総じて機知と諧謔に富んだものです)。

 

  さて、今回お薦めのCDですが、それはオランダのミカエル・ボルグステーデの演奏による、以下のものです:

 

 Couperin complete harpsichord music (Michael Borgstede, harpsichord) (BRL93082)

 

 ここにはフランソワ・クープランの全クラブサン曲が11枚のCDに収められています。軽やかで遊び心にも満ちた演奏はなかなか見事で、価格もおよそ5000円というお値打ち品(輸入版なので、購入店によっては多少上下しますが)。その日の気分に合わせて、あれこれと楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

 ♪プラスα――マヌエル・デ・ファリャ《クラヴサン協奏曲》

 

  一世を風靡し、バロック音楽には欠かせないクラヴサンでしたが、18世紀後半に登場し、19世紀に音楽界を席巻したピアノのために、その伝統は一旦は途絶えてしまいます。それが歴史への関心から再び注目を浴び、再生を遂げたのは20世紀のことでした。そのとき、たんに失われた伝統が復興されるのとは別に、この楽器は「現代の楽器」としても新たな生命を得ます。クラヴサンの新鮮な音に魅せられ、新しい作品を書く作曲家が徐々に現れだしたのです。

 

  そうした作品の中でも比較的早い時期のもので、今日でもレパートリーとされているものの1つに、スペインの大家、マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)の《クラヴサン協奏曲》(1926)があります。それは、かつてスペインで黄金時代を築いたリュート音楽の面影をどこかに残しつつも、あくまでもモダンな音のつくり(とりわけリズムの扱いが面白い)の3楽章からなる佳品です。ちなみに、この曲は「協奏曲」とはいっても、5つの楽器が伴われるだけなのですが、それだけに微妙な線の絡み合いを楽しむことができます。まだまだ残暑が厳しい今日この頃ですが、この南国の音楽がけだるい午後のひと時につかの間の涼をもたらしてくれるでしょう。

  お薦めのCDはつぎのものです:

 

  De Falla orchestral music (BRL6734)

 

これもまたお徳用なセット(3枚組で、およそ1500円)で、お目当ての《クラヴサン協奏曲》の他にもファリャの代表作がいくつも収められています。いずれもなかなかの演奏で、この作曲家の魅力を堪能させてくれるものです。

 

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